新思潮No.123 2014年11月号より②
例えばのどこら辺りに荷を下ろす みとせりつ子
 「例えば」という言葉は日常よく使う言葉でありながらあまり重きを置かれる言葉ではない。しかし作家はそこで立ち止まっている。この言葉そのものにこだわりを見せている。平易でいて奥深い作品だと思う。 〈寺田 靖〉
水を打つしばらく誰も通さじと 酒谷 愛郷
 この作家の凛とした強さが感じられる作品だ。子供の頃、夏には母や祖母が毎日家の前に打ち水をした。水が撒かれた場所に流れていた涼やかな空気の感触がよみがえる。この作家も、こころの中に誰も踏み込めない大切な場所を持っておられるにちがいない。 〈寺田 靖〉
風はヒロインいつもホットを頼む人 潮田  夕
 ロマンを感じさせる作品。〝いつもホットを頼む人〟は、私の過した昭和の世ではごくありふれた男性像だが、ジュースやカフェオレを頼むなどの甘いところはなく、いつもホット珈琲を頼み、流れ者を自認しているような男性像だろう。この男性を取り巻く風がことごとくヒロインというところから背景が広がる。ヒロインの一語が作品を成功させている。 〈岡田俊介〉
心音ひびき千羽の鶴は影を曳く 元永 宣子
 「心音ひびき」の作品は、〝千羽の鶴〟が生きているように心音をひびかせながら、現実のもののように〝影〟を曳いている光景であり、読者の胸に深く響いてくる。極限の心情と祈りを詠んでいる。 〈岡田俊介〉
冬の壜虚構の空へ鵺を飼う 山内  洋
 〝冬の壜〟からの連想であり、冬の壜のもつ虚構の空で、〝鵺〟(ぬえ)を飼うという。鵺の不気味な鳴き声が響く空なのだろう。伝説上の怪物とも言われる鵺の暗く、怪しいイメージが象徴的な作品。 〈岡田俊介〉
老人の眉間につづく轍跡 古谷 恭一
 この作家は、僕が川柳を始めた初期に深い感銘を受けた作家のひとりだ。この作家の詩情味溢れる作品にこころ惹かれたものだ。「死はいかに青い眉間をひらくとき」(古谷恭一)老人の眉間につづく轍跡に、言葉で言い尽くせない労苦が感じられる。まさか、ご自分のことを「老人」と言っておられるのではないとは思うが・・・。
 我々若手(?)柳人にとって、まだまだがんばってもらわねば困るのですよ。 〈寺田 靖〉
硝子の舟母子で壊す夜なべして 姫乃 彩愛
 「硝子の舟」は思い出を乗せた硝子の舟であろうか。それを夜を徹して毀さざるを得ない母子の心情がよく表現されている。硝子の舟も母子もシルエットのように描かれている。 〈岡田俊介〉
コーヒーを少し濃くして秋の階段 山辺 和子
 〝秋の階段〟が作品の陰影を濃くした。この言葉は次第に深くなる様子を階段に喩えたもの。コーヒーを濃くすれば秋の深まりに対抗できるかのように、秋の枯葉を縫ってコーヒーの香りが漂ってくる。秋の一コマを美しく詠んだ。 〈岡田俊介〉

古代より星撒く人のいるという 山崎夫美子
鳥かごに鳥のじかんが残される 寺田 靖
だんまりを決め蜘蛛の巣の私小説 佐藤純一
白き画布波打つ日捲りの中で 大橋あけみ
 
遁走は浜昼顔のひらくまにまに 細川不凍
猛暑が続く昨日のパンは崩される 板東弘子
冬の景色に囲まれていた炎天下 村上秋善
雨止めば虫の銀河にたどり着く 吉見恵子
露の世のデッサンに足してゆく余白 重田和子
 
草笛サロンにうつつをひとつ置いてくる 岡田俊介
追憶の木に群れている紋白蝶 福井陽雪
風に押され今山門を潜る雨 小林ひろ子
冬を抱く人ら集いて咲かす花 古俣麻子
便箋の二枚目に書く向こう岸 出雲寺 紘

2013.12.18

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