新思潮No.133 2015年7月号より①
霖雨のち友だちひとり消えている古俣 麻子
高橋洋子に『雨が好き』という小説があるが、僕自身は雨は嫌いだ。殊に「霖雨」のようにしつこく降り続くと、心が塞いでしまう。代わりに、淋雨(造語になると思うが)を使いたくなるくらいだ。掲出句も、「霖雨」を陰鬱な雨と感取している作者がいて、その間に友人を失う決定的な出来事が起きてしまったのだ。「後」を「のち」と表記する表現者としての気遣いもあってか、「る」止めの句でありながら、余情が漂う。湿った内容であるが、それに引き摺られることのない淡淡とした表白は作者の手腕だ。〈細川不凍〉
都人ならば一身葉桜に 潮田  夕
この句には、都人の心意気が感じられる。一身が葉桜になってしまうという発想が得がたく、葉桜の神秘性が表現されている。都のもつ雅をどこかに秘めた葉桜が実にいきいきとしていて、葉桜の匂いさえも感じられる作品に仕上がっている。〈岡田俊介〉
飛花落花抑えのきかぬ拳とぶ 鮎貝 竹生
桜に寄せる日本人特有の心情や美意識を、巧みな言い回しで活かした柔軟な言語感覚が素晴らしい。「飛花落花」の因を作った出来事(またはその当事者)に対して、憤怒の拳を飛ばすのだ。颯爽とした侠気に富む作品で、読後、痛快な気分に浸った。〈細川不凍〉
悲しみの糖度20の檸檬かな澤野優美子
糖度20とは、百グラムの中に二十グラムの糖が含まれていることだという。ゴボウやメロン等では糖種が異なるが20はかなり甘い。「悲しみの糖度」という絶妙な表現と、悲しみの形を「檸檬」にしたことで甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がった。『ひと雨ごとに雲のしっぽはふかみどり』も心象メルヘンのようで楽しい。〈岩崎眞里子〉
深い水含んだwhy返される寺田  靖
新しい川柳味の窺える作品だ。外国人とは限らないが、why(どうして)という返答に戸惑う作者がいる。そのwhyが深い水を含んだようだというから、軽い返答ではなく、根元的な何かを問うような返答なのだろう。瞳の真剣さが作り出す、そのときの雰囲気が伝わってくるようだ。寺田の作品は適度の抽象化が味わいを深化させている。〈岡田俊介〉
刃こぼれの月を抱きし街人は山崎夫美子
妻という傘重き未明のラブレイン姫乃彩愛
姉の湖畔にいつまで残る茜彩 板東弘子
また逃げるつもりの足裏ふいている酒谷愛郷
シャキッとレタス春を一枚ずつ剥がす山辺和子
すみれ咲く万象の音とじこめて松田ていこ
風を読む木の一本になれず病む細川不凍
こみあげるものが支えている背骨岩崎眞里子
尽日はシャボンに映る瑠璃ばかり山内 洋
あったことなかったことも夢遊び中嶋ひろむ
2015.7.13

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