新思潮No.141 2016年11月号より②
夕空のマント褪せゆく ボーン・アゲイン桂 由輝花
夕空をマントのように身にまとったイメージを想像した。シルエットが実に鮮やかだ。 その夕空も色褪せてくるのは、世に存えすぎた年齢ゆえにそう感じるのだろう。世に疲れ たのであろうか、疲れに比例して色褪せてゆく、かつての夕空の彩を取り戻すべく、自ら が新たに生まれ変わることを希っているのだ。生れ変りという主題を持ちながらも創造し たイメージが美しい作品。〈岡田俊介〉
落城のはなし 一面彼岸花中嶋ひろむ
〝はなし〟の使い方に妙に感心した。落城と一面の彼岸花の取り合わせはいい感じであ る。一面彼岸花と云うだけで、圧倒的で神秘的な赤の広がりがあって、容易に異次元に導 かれる。そこに落城と云う翳りをもつ言葉で、この異次元の性格を語らせている。〝はな し〟はこれらの二つの言葉を反応させる触媒の役目をもっているとも思う。落城の言葉を いきいきさせるのに役立っている。〈岡田俊介〉
台風一過ガラスの蜻蛉やってくる澤野優美子
八月下旬、北海道は立て続けに四度の台風に襲われ、大きな打撃を受けた。台風には鈍 感な道民も、この異常さには度胆を抜かれた。〈台風一過あとにさみしき男の歯〉という ネガティブな拙句があるが、優美子句は作者の内なる個性の発露よろしく、ポジティブに 表出していて対照的だ。優美子句のファンタジーは、現実からの逃避ではなく、前向きな 〈夢〉や〈希望〉の仮象なのだ。〈細川不凍〉
火焔土器焔(ひ)はバンザイをして哮り新井 笑葉
土器の中でも華やかで完成度の高い火焔土器は、縁の焔が印象深いが実用的には見えな い。でも祭事に用いたとすれば、なるほど万歳が聴こえてくる。〈岩崎眞里子〉
幽冥の中からトンボとんでくる岡田俊介
ガラス器はトンボの影を抱く晩夏岡田俊介
そこにあるだけの回想 夏帽子岡田俊介
日焼けしたような「紫の魚」、茹でられたような「陶酔の魚」、それでも激すことなく岡田 作品の夏は静かである。そんな夏の終わりを告げるように幽冥界から飛んできたトンボ。 影を留めたガラス器に秋を感じた。回想の形で置かれた「夏帽子」が象徴として眼裏に残る 。〈岩崎眞里子〉
林檎いま詩人の胸に熟れたるか松井 文子
遠景に蝉のぬけがら幾重にも元永 宣子
茫々と亡姉の鏡を拭いてやり酒谷 愛郷
架空残照 老母が放っていた光板東 弘子
傾けたガラスのグラスに命の音が西条 眞紀
うなじ昏れてうつらうつらのうわばみよ鮎貝 竹生
しっかりと壊れた蟻の脚を見る 福田 文音
送迎バスクレーンで降ろすわが余生 重田 和子
陽の神のまなざしアテルイの土偶小林ひろ子
もう花は乳房に降らぬこの世で降らぬ吉田 州花
あの町へ誰かしずかに冬を撒く寺田  靖
2016.12.21

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