新思潮No.146 2017年9月号より①
季をすすむ 銀の光沢手がかりに岡田 俊介
四季それぞれの美しさも愛で方も知っている者でなければ「季をすすむ」という表現は生まれない。銀の光沢は六月の静かな雨でもあり、シルバーグレー世代の心でもある。次に訪れるのは夏であっても、未知の夏なのだ。渋いながらも光沢を放つ詩心をたよりに明日へとゆっくりと進んでゆく。〈古俣麻子〉
日ごよみを捲る小ゆびの息づかい松田ていこ
指切りをして契った逢瀬の日が近づいてきた。思いは募るばかりで、小指も熱く息づいているようだ。八九調の韻律がしなやかで心地好く感じられるのは、作者の表現者としての手腕だ。〝日めくり〟は「日ごよみ」に、〝小指〟は「小ゆび」にと、心配りが細やかなのだ。小指にまつわるエピソードは圧倒的に女性に多い。女性作者の特権的な内実を具えた句と云えよう。〈細川不凍〉
ほのかな色香を感じるのは「小ゆび」と「息づかい」からだろう。月めくりのカレンダーは季節の花や風景を思い浮かべるが、ここでは視覚的効果より待ち遠しさや期待感など心象に重点を置きたいから「日ごよみ」であることが必然だったのである。〈古俣麻子〉
フラスコに渚 遠い日の約束 月野しずく
ガラスの置物は涼を呼ぶ。花や緑を活けるだけでなく星の形や水色に染められた砂などが詰められた小瓶が売られている。ここに入っているのは今にも潮騒が聞こえてきそうな渚。フラスコの細い首からは決して取り出すことのできない若き日の約束が打ち寄せては引いてゆく。〈古俣麻子〉
風は葉擦れへ人は憂いへ戯れる谷沢けい子
風の葉擦れへの戯れと同じように、人の憂いをも戯れというところに発見がある。人の憂いは自然なことで、風が葉に戯れるようなものだというのだ。戯れたのちには何も無かったように澄んだ目に戻るのだろう。〈岡田俊介〉
ふくらんで涙になってゆく蛍西田 雅子
眼窩が潤んで、じわじわとふくらんで涙になるズームアップの映像が見えてくる。やがて耐えきれずに零れて落ちるかと思いきや一転、蛍光色に点滅しながら蛍が舞い上がる。美しく独創的なシーンである。儚い蛍のように後をひかずに消えてゆく涙であってほしい。〈古俣麻子〉
持ちきれぬ明日 向日葵だった頃古俣 麻子
雨のことばで定形外となる封書澤野優美子
なぞなぞのこの世ガラスのスイトピー岩崎眞里子
メトロノームの揺れ幅にある春愁山崎夫美子
風媒花の寡黙密談は終った林  勝義
萬緑の力を借りてプルトップ福田 文音
草にすわればいにしえの蝶かげろえり吉田  浪
蟻地獄より天仰ぐ蟻一匹 鮎貝 竹生
山法師 一部始終の成れの果てみとせりつ子
雑然と脱ぎ捨てられて通夜の靴野邊富優葉
窓際の金魚ぶくぶく俺を吐く中嶋ひろむ
頬杖の視線 白磁の雲を追う山辺 和子
2017.9.20

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