新思潮No.149 2018年3月号②
小樽研修句会(2017年10月14日)ー作者未知の時点で

合評会司会・山崎夫美子

(夫美子)それでは私の方で司会をさせていただきます。事前に互選による5句選出、うち1句は秀句指定でお願いしました。秀句は2点、佳作は1点とした合点で、高得点の作品から進めたいと思います。
   ※秀句推薦者  ・佳作推薦者
ほほえんだままで密封されている桐 子
※涼子・雅子・靖政・はる香・千秋・夫美子・夕祈・俊介 (雅子)微笑むという表情と密封という具体的なものを対象に、その二つが一つの 句に入ることで不思議な魅力を出していると思いました。どんな時に微笑むのだろ うか。嬉しい時や楽しい時だけでなく、悲しい時や怒りがある時、悔しい時なども 微笑んでしまうなとか、微笑みの表情は一つでもその中身・内情というのは曖昧で もあり豊かな表情でもあるとか、この句から微笑むということを考える機会にもな りました。それが密封されている。奥底では悲しみや怒りを含みながら密封されて いるという状態はかなり辛いと思いました。難しい言葉で書かれてはいないですが 、微笑みについて深く考えさせられる句と思って入れました。
 
(靖政)最初のイメージはモナリザの微笑みで、モナリザの微笑みの中に閉じ込め られるという感じでした。そんなことを考えながら、怒りなり、悲しみなりいろい ろなものが微笑みの中に密封されているのだと。そのあたりに微笑みがないと生き ていけない人間のさがみたいな深いものがあると思いました。
 
(はる香)今年一月に主人が亡くなり、棺に納める前に私を見てにこっと微笑んだ んです。こういうことは実感としてあると思って、この句を選びました。
 
(夫美子)採られなかった方で、竹生さんどうでしょうか。
 
(竹生)分かりやすい句で、密封されるというところの表現の良さなんでしょうが
 
(笑葉)いい句ですが、こういう句が一つのパターンとして出来上がっているよう で、深淵に迫る思いが感じられなかったです。
 
(夫美子)私はこの句をいただきましたが、抽象的な表現で皆さんがどう解釈され るか興味がありました。微笑みというのは「声を立てずににっこり笑うこと」と辞 書にありますが、それが表面だけでなく内面まで微笑んでいるかどうか? にこや かに見せていても、心はそうでないこともあるのではないかと思ったりします。優 しい微笑みであっても、小悪魔的な微笑みであっても、それを密封するのではなく 、密封されているという、静止した客観的な発想が面白くていただきました。
 
(千秋)自分の句に「斜め45度にスマイル閉じ込める」がありますが、これは遺影 のことだと思いました。
 
(夕祈)取り方が二つあると思いました。送られてきた箱を開けたら秋の味覚のリ ンゴなどの収穫物で、ほっこりとしたという単純な取り方ができますし、それとは 別に父を見送った時の、最後まで笑顔を忘れない安らかな顔が思い出されました。 単純に読むか、そういうふうに読むか、両方できる句だと感じました。
 
(夫美子)秀句に採られている涼子さん、お願いします。
 
(涼子)一読して心に引っかかってきました。この句のもつ幸福感、安堵感といい ましょうか、満足感みたいなものを感じました。いろいろあったかも知れませんが 今は満足している、幸福だというのを感じて秀句に選びました。微妙な心理状態を 、優しい言葉で淡々と詠んでいるところがとても好きでした。
 
(俊介)それぞれに違ったご意見が出て面白かったです。私は顔のデッサンを見て いるようだと思いました。それが微笑んでいるということで惹かれました。一瞬を 切り取っていますが、そこから物語が自由に展開できるのではないかと思っていた だきました。一瞬を切り取った微笑みなので、ずっと残っていくのだと思います。
 
(夫美子)では作者にお聞きしましょう。
 
(作者)皆さんが読んでくださったとおりで、作句のきっかけは、急に遺影になっ た友人がいてご自宅にお参りに行かせてもらったのですが、ご家族が彼女の思い出 を何一つこぼさないように大事にしている感じがありました。句にしようとした時 、込めているものにしては、句が軽すぎる気がして、そこに入れたいことが多いほ ど、こういう詠み方になってしまったという一句です。
 
もう風に半分なっているリボン 雅 子
※千秋・不凍・彰・涼子・俊介 (千秋)自分が失ってしまった若さではないですが、作品そのものの若さに脱帽し ました。何か新しいことが始まるような期待感、ワクワク感が魅力的で惹かれました。
 
(夫美子)今回特別に参加してくださった不凍さんの選評をお伝えします。
 
(不凍)「半分なっている」の語句が妙(たえ)なる言葉として、この句の内意に深 い趣を与えている。残り半分の時間と空間が、夢や希望をさらにふくらませてくれ るのだ。風の中を駈けるリボンを付けた少女の姿が、軽快なリズムに乗って輝いて 見える。メルヘン的な心地好さだ。
 
(夫美子)採られなかった方で、はる香さんどうでしょうか。
 
(はる香)いい作品だと思います。孫のことを考えましたが、このように作れませ んでしたし、他に選んだ句がありましたので入れませんでした。
 
(彰)今回は解らない句を採るという方針で選びました。この句もその一つで、半 分風になっているリボンは何やろうと迷って、少女が草原を走っていて、頭に着け ているリボンが風の如くになっているというイメージも解釈としてあると思います が、女の子が着けているリボンだけでなく、この風が千の風みたいだったらどうな るかと考えたんです。難しい話を言うとDNAはリボン状になっているんです。そ れが端からどんどん崩れていって死に至る。それがごく自然であるという解釈の方 が面白いかなと思いました。
 
(涼子)このリボンを女の子のリボンとかに感じませんでした。とにかくかなりの 強風に吹かれているリボンを想像しました。それが目の前をいくというのが新鮮だ ったんです。気持ちを歌っているわけではなく、半分風になれたのだと、作者が感 じたであろう光景を想像して、とてもきれいだと思いました。
 
(俊介)プレゼントのリボンとか華やかな思い出のようなリボンを思い、それがだ んだん風化していく様子にもの悲しさが出ているので、上手い句だと思い選びました。
 
(彰)学校で習った「花の町」の歌にある風のリボンを思い浮かべました。

(作者)心地よい風が吹いて来た時に、この風を一番喜ぶのは何だろうと…。リボ ンだったらこの風に乗って、風とリボンが一体化するような気がして、そのイメー ジを一句にしました。特に深い思いというより、風の心地よさを句にしたいと思いました。
 
死者たちも独りと思う夕灯り夕 祈
※彰※笑葉・優美子 (彰)この夕灯りは大震災で家を亡くした人々の復興住宅の町灯りではないかと思 えます。復興住宅の灯りが、引っ越しをされて一つずつ消えていく。本来は町であ るべき所ではないのに家の光がある。自分たちの町ではない所に灯りがポツンとあ るということに、震災で亡くなった死者たちの魂の、何とも言えない悲しさや寂し さみたいなものが込められていて、一番いい句だと思いました。
 
(優美子)重い句だと思いました。夕灯りが明かりでなく灯りなので、仏壇のロウ ソクを想像しました。私は現世にいるので死後の世界は分かりませんが、亡くなっ ても「死者たちも独り」というのに胸を打たれました。深いところに視点が向けら れた重い作品で、いい句だと簡単に一言で言うにはあまりにも失礼な鑑賞になると 思いながらいただきました。
 
(夫美子)採られなかった方で寿子さん。どうでしょうか。
 
(寿子)見慣れた句というか、見たこともあるかなあ、自分も昔作ったことがある かなあという感じがして選びませんでした。
 
(夫美子)では秀句に採られた笑葉さん。お願いします。
 
(笑葉)「死者たちも独りと思う」という表現で、天界からものを見つめていると いう気がしました。そして下界の孤独死などの社会性の問題で、死者自身も孤独性 をもっていたのではないか、憐憫な思いや憐れむこととかそういう情景が浮かんで きました。そう考えた時、この夕灯りにあたたかさや団欒の世界を感じました。死 者たちもそういう境遇にいて、孤独性を味わったのかな。夕灯りの中に団欒やあた たかさを見つめたのかなということで、「死者たちも独りと思う」という表現が強 烈に私の心の中に訴えてきました。
 
(作者)二つの気持があって、一つは福島への思いというのがあります。一瞬に大 勢の人が波にさらわれて無念な思いであっただろうし、見つからない家族の方は未 だにそれを抱えておられると思うし、夕方の揺らめいている灯りを見ると寂しさを 感じるんですね。もう一つは、自分自身も大切な人を何人も送って、想いが足りな かったなと反省することがいっぱいあります。自分の寂しさとともに、送った人た ちの魂も近くにいてくれるだろうけれども、寂しい想いをしていないかなと。福島 の方達の想いも重ねながら、夕方の灯りを見る度に切なくなります。だから灯して 少しでも気持ちを慰めたい。そんな思いで作った句です。
〈テープ起こし:山崎夫美子〉
2018.4.15

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