新思潮No.149 2018年3月号より③
ほの揺らぐかりそめの世の手燭の灯吉田  浪
作品の妖しい美しさがふと、泉鏡花を思い出させる。亡母への憧憬を基底に多く のロマンと幻想の作品を生んだ泉鏡花。妖しい作品の底辺には必ず清冽な水が流れ ている。それが鏡花作品の魅力だった。吉田浪さんの作品も、妖しいゆらぎの奥に 凜と清楚なものが立っており、それは動かしがたい浪さんの作品の魅力になってい る。〈松田ていこ〉
折鶴も小窓を越えてわが寝屋に西条 眞紀
われなきのちにも咲くか濃紫陽花は西条 眞紀
沖の沖より影踏みつづけ魂あそび 西条 眞紀
人として母として、小さな背に負うものの愛しさ重さ、どんな状況下に詠まれて も美意識を忘れない眞紀さんの作品の素晴らしさに感動するばかりです。〈松田てい こ〉
涙も花びらも微笑むように一枚に姫乃 彩愛
憂いを含んだような句はこの作者のものだ。涙と花びらが、一枚となってしまっ たという、イメージを創出した作品だが、美しいものの象徴である花びらが、涙と 同化してしまったというところに、哀しさが宿っている。無機質の匂いのする〝一 枚〟は、涙と花びらの憂いを、そこに収束してしまい、作者に微笑みながら、やが て消えてゆく。後には何も残らず、余韻だけが漂うのだ。〈岡田俊介〉
ふるさとの輝く森で朝の粥黒川 孤遊
熊本地震の震災後の風景なのだろうか。平成28年4月に二度にわたって揺れた記 憶が生々しい。家々が倒壊した後の〝朝の粥〟であれば、いろいろな思いが詰まっ ている筈だ。以前と変わらぬ森の景色と、その中での〝朝の粥〟が、森を一層輝か せ、ひとときを潤すのであろう。作者は川柳句集「熊本地震の記憶」(平成29年3 月刊)の編集にも携わった。〈岡田俊介〉
冬林檎少女に忘我ありにけり望月 幸子
冬林檎の赤が目立つ作品。林檎を持つ少女というより、忘我をしてしまった、か つての少女がそこにいるのだろう。少女と林檎がそのまま年を重ねてゆくイメージ で、少女の赤い頬がいつまでも、その輝きを失わぬのであろうか。〈岡田俊介〉
詳細は語らずぶらりザッハトルテ松井文子
音たてて茶碗が割れる奈落が開くみとせりつ子
擂鉢で証拠隠滅するように古谷 恭一
清きもの荒野の風を滾らせて杉山夕祈
地吹雪の音を琥珀に閉じ込めて氈受  彰
限界集落一筆書きの地図の家小林ひろ子
落丁の彼方に男の喉仏山下 華子
歳月というアマゾンの掌の湯呑み山内  洋
夕茜 猫の声する輪に戻る福田 文音
土まんじゅう同じ話を飽きもせず 野邊富優葉
雑草の育つ時刻の静謐ぞ梅村 暦郎
2018.5.1

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