新思潮No.154 2019年1月号より①
  
雨上がりの命 一本電車見送る姫乃 彩愛
 病魔との闘いで疲れが溜るなか、一条の光明が見えてきた。訪れた小康を逃してなるものかと、彩愛さんは表現者魂を燃焼させてみせた。「雨上がりの命」は病状が良い方へ向かっている証左として得たフレーズ。しかし雨は上がったばかりで無理は禁物だ。「一本電車見送る」くらいのゆとりがあっていい。「雨上がりの命」の美しい韻きを、神様はしっかりと耳を澄ませて聴いておられるに違いない。リズムのぎこちなさが却って、表現から滲み出る愛おしさを誘う。〈細川不凍〉
水の枷火の枷おもき島の闇杉山 夕祈
 今年(2018年)、日本では22件目となる『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』のユネスコ世界遺産への登録が決まった。江戸幕府のキリシタン弾圧の禁教政策は終りを告げ、潜伏していたキリシタンはそれ以降、多数派のカトリック信者と、少数派で父祖伝来の信仰形式を守る隠れキリシタンとの二派に分かれた。夕祈作品のタイトル〈祈りの島〉は、潜伏キリシタンから隠れキリシタンとなった少数派が、現在も暮らす五島列島の中の一つと想われる。夕祈さんの創作スタイルは、歴史的な出来事からテーマを決め、そこから作品化への構想を丹念に練る。その知的作業には、常々感心させられるところだ。掲出句の一句目、禁教令に背いた刑罰としての「水の枷火の枷」なのだ、「島の闇」にはいまも、殉教者の魂が眠っている。〈細川不凍〉
生と死の間にはらり銀杏の黄山辺 和子
 銀杏並木の黄と、その下の道に転がる落葉の黄が、美しい空間を作り出す。とくに曇天の道なら、なおさらここちよい。この句はそんな銀杏の葉が、生と死の間に舞い込むように、はらりと舞い落ちたという。この一瞬の揺らぎが露わになった句だ。表が生、裏が死の葉を想像することもできるだろう。〈岡田俊介〉
ちょきだしてチヨコレイトな夢じかん澤野優美子
 表現が妙にコケティッシュで愉快だ。ちょっとした工夫が表現に生気を与え、読む者にインパクトを感じさせるのだ。じゃんけんをして何を決めようとしているのか気になるが、二人だけのスイートな夢じかんに、お節介をやく必要はない。〈細川不凍〉
独り居の髪の先まで秋浸みる秋田あかり
 独り居の寂しさは秋にはさらに深まる思いがするものだ。〝髪の先〟まで秋が浸みる、つまり全身を秋が染めている情景なのだ。少し誇張気味の〝髪の先〟まで秋に浸みるとの表現だが、秋の寂しさをよく表現している。〈岡田俊介〉
天刑のごと涙する椅子ありて梅村 暦郎
 椅子に座って涙を流している光景だが、その涙は〝天刑〟のような涙というところに、深い悲しみが宿っている。この上なく深い涙なのだ。この〝天刑〟の使い方に、言葉を鋭角に駆使する作者の作家性があるだろう。言葉の的確さと、それによって醸し出される余韻の広がりは作者ならではのものがある。〈岡田俊介〉
曼珠沙華 救世軍は遠く去り古谷 恭一
おちば踏む白いテラスへつづく径松田ていこ
褐色に連なり秋の実もヒロイン松井 文子
枕辺にイチョウ敷きつむ真夜の湖伊藤 寿子
オフライン秋野は霧の音ばかり月野しずく
立冬や一枚の布首へ巻き望月 幸子
もうひとりの診立てに咲いた初日の出重田 和子
インク壺満たし未来というビジョン松村 華菜
2019.1.16

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