新思潮No.155 2019年3月号より②
風に立つ雨の匂いのジャコメッティ杉山 夕祈
彫刻家ジャコメッティの針金状人体作品は、哀しみが細い線となって記憶に残る。雨に濡れ風に吹かれ、それでも祈り続ける芯のように雨の匂いのする人体である。前号は「祈りの島」今号は「病む友よ」と、『夕祈』の名が示すように作者にとって創作は祈りである。それ故に重層で奥深い言葉は、調べる程に読者を高みへと導く。〈岩崎眞里子〉
張り子の虎のくねくね飽きもせぬ枯野大谷晋一郎
張り子の虎がいつまでも首を振る様子が見える句だ。飽きもせずにくねくねとしている張子の虎を眺める作者の〝枯野〟が周りに広がっている。手持無沙汰の枯野、無為の枯野であろうか。その枯野から現実への回帰には力が要ることだろう。〈岡田俊介〉
膨らんで眼を瞑る鳩 雪の籠吉見 恵子
雪景色の中に鳩を見つけたものだ。鳩が囲われているのは雪の籠なのだ。雪を、鳩を閉じ込める籠のように見立てたところが、新鮮な表現だ。この見立てによって、冬の一景色を作品に仕立てている。〈岡田俊介〉
黄昏の遠音ナミダを連れてくる月野しずく
平穏な日常風景に想いを託したさり気ない美しい表現はしずく作品の魅力であり、静かに読者を立ち止まらせる。《空耳か秋に細鳴(さな)りの豆腐売り》の「細鳴り(さなり)」に心惹かれ、今号は「遠音(とおね)」に続く片仮名表記「ナミダ」に裡へと向かういんいんとした響を感じた。〈岩崎眞里子〉
分身を取り出しに行く地下収納古俣 麻子
分身に頼らざるを得ない事情が生じたのだ。心理サスペンスを想わせる内容があって、感興が湧いた。〈細川不凍〉
熟睡の拳をほどくオルゴール伊藤 礼子
熟睡していて、握り締めた拳をほどくのは、赤子に返り、自我を忘れたからだろうか。この至福のひとときを暗示するオルゴールは、美しい音色である。人生の、ある場面を切り取ったかのような作品だ。〈岡田俊介〉
凍れガラスに去りし眼の閉じこもる桂 由輝花
腐葉土がある老人の蘇生力古谷 恭一
天地(あめつち)に人ぶらさがるぶらさがるみとせりつ子
テントへラクダの鼻進入禁止鮎貝 竹生
母になら話せる森をひとつ越す板東弘子
右巻きは銀河 つむじは左巻き氈受  彰
つと小声月下美人の訃を告げる吉田 浪
座標2点米寿卒寿と方眼紙内藤 夢彦
切れ味の良い鋏夕立から貰う佐々木彩乃
国破れし昭和を青き血が奔る梅村 暦郎
2019.4.17

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