新思潮No.156 2019年5月号より①
つのぐんでみんなこぼとけ夕陽波岩崎眞里子
「つのぐんで」は角のような芽を出して、という意味。同義語に〝芽ぐむ〟があるが、あまり馴染みのない分、新鮮に感じる。どことなく土着性の匂うところも面白い。一斉に芽を出したばかりの小さないのちたちを、〈小仏〉に譬えたメルヘンタッチの愛らしい表現は、作者の郷土に寄せる篤い想いの顕われであろう。やわらかな夕陽光のつくる波の上に、「こぼとけ」たちの静かにたゆたう情景が、ゆるりと見えてくる。まるで仙境のように。〈細川不凍〉
イカルスは鏡に棲んで行方知れず桂 由輝花
ギリシャ神話のイカルスは、父ダイダロスとともに閉じ込められた迷宮から、蝋で貼りつけた羽を付けて飛びたったが、太陽に近づきすぎて蝋が溶け、落ちてしまったという。この句は、迷宮ならぬ鏡の中に棲むイカルスが、迷宮から飛び立ったかのように、居なくなってしまった。何処へ行ったのか行方知れずになってしまったというのだ。この喩えで、現状から飛躍したいもう一人の自分が、知らぬうちにどこかへ行ってしまったとの思いに通じる。不安定な存在としてのイカルスに、その思いを託している。

〈岡田俊介〉
アガペーやわが眼底に冬銀河中嶋ひろむ
アガペーは、新約聖書の神の人間に対する愛をいう言葉だ。この句の〝眼底の冬銀河〟は、さびしく、厳しい感じを受けるが、アガペーと対比させると、この言葉に呼応するかのように、冬銀河が輝きを増し、深淵に誘い込まれるように感じる。〈岡田俊介〉
空中でパチンと合わす春の靴吉見 恵子
跳び上がって両足を合せる動作を言っているのだろう。この動作には春の感覚がにじみ出ている。春の感覚の表現は人それぞれだが、この句は、春の感覚をビジュアルにする表現の工夫がある。パチンと合わす春の靴から、うきうきした感じが伝わっている。

〈岡田俊介〉
天窓に天の雪見るさみしんぼ細川 不凍
川筋も血筋もほのと見えてこそ細川 不凍
季節の移り変わりを知らせてくれる天窓。日々小さな窓枠の中で繰り広げられる天の理(ことわり)。不凍さんは天窓を見ながら、はかり知れないほど多くのことを考えてきたのだろう。今年の雪は、不凍さんをずいぶん孤独にしてしまったようだ。天窓は不凍さんにとつての小劇場。ここで寺山修司の「天井桟敷」など上演したら喜ぶだろうなあ、などと突拍子もないことを考えた。長く生きていると、時の流れに甘んじて添うように歩いている自分に気づく。加島祥造は? 求めない・・・すると自分の時計が回りだす?と言った。景色も人もほんのり見えるようになった時、救われる。〈みとせりつ子〉
暗黒(ダーク)物質(マター)それより重き月の罠杉山 夕祈
薄い冬かもしれぬ鐘が鳴る姫乃 彩愛
白梅しだるるそのしずけさを潜る吉田  浪
冬が残していったざらついた眉間秋田あかり
散り際に当たり外れを言う桜古俣 麻子
梅桜 許せぬ影がながながと元永 宣子
新元号誕生さみどりに光る伊藤 寿子
古甕が一つ 村から人が消え古谷 恭一
公園ベンチ 夢とはぐれたおばさんはみとせりつ子
春の詩を探す都会のアトリウム氈受  彰
この世から逃げてみないかヒヤシンス立花 末美
2019.5.14

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